【恋愛は最大の媚薬】
男は「女をイカせてメロメロにしたい」と考えて、「それには精力絶倫だな」と考えて、それで精力剤なんかを買ったりするわけです。
いや、私の場合、そうでした。
ま、いまでも、基本的にはそうです。
ところで、もちろん、これは男側の一方的な願望であって、そもそも女側が「いっぱいイカされてメロメロにされたい」と思っているかどうか。
超チープなポルノには「口ではイヤがってても体は正直だな」等というパターンが存在しますが、男の多くはこのあり得ないパターンをじっさいどこかで信じているフシが見受けられます。
ただ、例えば無理やり女の子を押し倒して犯してもこういうことにはなりませんが、女の子のなかには「ちょっと強引にされると感じる」という子はたしかに存在します。
ある程度合意のもとで、ということなんでしょうね。
この「ある程度」というのが本当に微妙なところなんですが、ここの駆け引きを誤るとただの強姦になってしまいます。
まあ、ひたすら優しくされたいという女の子もいますし、この辺りの塩梅は個人差があるってことなんでしょう。
男が女をイカせたいというのは、ある種の支配願望です。
では、女がイカされたい、というのは、被支配願望なんでしょうか。
それとも単なる快楽志向なんでしょうか。
これもまた微妙な塩梅の問題ですが、ともあれ、男側と女側の間には暗くて深い溝があって、こと性においてはなかなかかみあうということがない。
男と女は性行為に対称に向かい合っているわけではないのです。
身体的な形状こそ凸と凹でかみあっていますが、精神においては、そのようにかみあってはおらず、それぞれが向かい合っていると思い込んでいるだけで、性行為において、じつはまったくの異質の体験をしているのかもしれないのです。
・・・なんだか哲学的な話になってきました。
このまま話が抽象的になっていくのを急いで立ち切って、「男はなるべく女が多様だってことを認識しましょう」という無難な結論に落ち着けましょう。
さて、女が多様であるなら、男は女についてもっと知らなければなりません。
女の話をもっと聞かなければなりません。
ただ、女は本音を喋りませんから、女の話の中から、彼女が隠している本音を探り当てる必要があります。
たいていの男は、そんなことはしません。
めんどうですからね。
でも、女は自分の本音を知ってもらうことを欲しています。
もちろん、その本音を知って、鬼の首を取ったように騒ぎ立ててはいけません。
「おおい、みんな。こいつ、じつは、目隠しとかされたがってるんだよお」(誰に言ってるんだ…w)…もちろんNGです。
得々と語り上げるなんてのもNGですね。
「君は幼少時のトラウマによって性に積極的になることを怖れている。しかし怖れているがゆえにまたそれを欲してもいる。性を享楽したいという無意識の欲求は人一倍強いはずだ。ぼくにはきみの欲望が分かるよ。そうしたいわば神経症的な欲望についてはフロイト-ラカンによれば、云々云々」…ダメパターンです。ま、たまに、インテリ萌えする変態女はいるんで、そういう女には例外的に受けるかもしれませんが。
女の子は自分の本音を知ってもらうことを欲しています。
そして、その本音を、言葉で指摘されるのではなく、優しく暗示されたい、行為で示してほしいと思っているのです。
例えば、「目隠しをされたい」。
これはそうはっきり望んでいなくとも、漠然と「全身に思いがけない刺激を与えられて惑乱的な体験をしたい」と望んでいる女は多いです。
惑乱的な体験をしたいとは、戸惑い、乱れたい、という願望です。
やさしくもてあそばれたい、と言い換えてもいい。
かるいマゾヒズムですね。
こうした願望は、男女問わず、潜在的には多くの人が持っているものです。
よく女性向けのポルノ(レディコミとか)では、行為の最中、いきなり男がハンカチやネクタイで目隠しをしてくる。
「ち、ちょっと…」と戸惑う女の体を、いつもとは違った激しさで責め始める男。
女の心の声、「え?やだこんなの、で、でも、なに?この感じ…」
男はいたずらっぽく笑って、不意に女の急所に指をつっこむ。
唐突な刺激に、女が思わず声をもらす「はうあっ」。
…どうでもいいですが、この「はうあっ」ってよく目にしますね、エロ小説で。でも現実には聞いたことありません。鶏が「コッカデュルデュウー」と鳴くのを聞いたことがないくらい聞いたことがありません。
…それはいいとして、ま、女性用のポルノってことは、これ、女が読みながらオナニーするわけですよね。
つまり、多くの女、すくなくともレディコミを読むような女の中には少なくともそういう潜在的な願望があるってことになります。
ええと、とりあえず話が散乱してますが、何が言いたいかって言うと、男はもっと女の子が何を欲しているか、何を悩んでいるかを考えて、それに応えなければならない、ってことが言いたいわけです。
そうすればルックスが悪かろうが、精力絶倫じゃなかろうと、心の通うセックスができるのだということが言いたいわけです。
心が通うと、稀に、射精しても射精しても行為が終わらない、どこまでも気持ちがいいという状態が訪れることがあります。
そうなれば、二回戦どころじゃない、三回戦、四回戦と行為を重ねても、とめどがありません。
相手との相性だけじゃなく、こちらの調子もあるんで、そんなふうになることは本当に稀なのですが、あれはまさにこの世に顕現したパラダイス。
私はそんなパラダイスに行ったことが何回かあります。
そのパラダイスがあんまりパラダイスだったんで、その後精力剤を試したり、非合法のドラッグに手を出したり、さまざまな冒険をしてきましたが、いまはっきりと言えるのは、あれは相手の女の子と心が通っている状態が必須条件だったということです。
恋愛は最大の媚薬というのも、同じことを言ってるんだと思います。
男のモテたいという漠然とした願望も、やりたいというだけじゃなく、無意識のうちにモテ→恋愛→脳内ドラッグハイパーインフレ状態→パラダイス、って経路を思い描いているんでしょう。
ただ、恋愛というのは、非常に特殊な状態で、なおかつじつは恋愛しているからといってその相手とのセックスがいつも最高というわけではありません。
相思相愛のふたりが、稀に、お互い深く溶け合って理解し合っていると錯覚し合っている状態になったとき、深い相互理解に基づいたパラダイスのヴァーチャルバージョンが出現するにすぎません。
逆に言えば、恋愛という病気を経ずとも、深い相互理解さえあれば、あのパラダイスは訪れ得るということです。
精力剤を追求する旅は、ここに来て、女を追求する旅へと変貌しつつあるのかもしれません。
そして女を追求するとは、性を、生を、死を、宇宙を追求することに繋がるのです。
…ええと、べつにドラッグとかやってるわけではありませんので。