【精力剤の成分 その6】
▼覆盆子(ふくぼんし)
覆盆子の原植物はわが国ではトックリイチゴといっている。
原産地は中国で、広く全国の山野に自生している。
ふつうのイチゴと違って低い木で、全茎にトゲがあり、白い花を開く。
普通のイチゴのように赤く熟する実をつけず、偽果といって未熟な果実のままで種子ができる。
この偽果を乾燥したものが生薬覆盆子である。
おもな薬効は強壮スタミナ剤として、活力、性力を強化し、疲れ衰えた春をよみがえらす。
陰萎に効あり。
二次的には肝臓と腎臓の力を強くし、解熱と肌を美しくする効果もある。
古典には「男子の腎精、体力欠乏、陰萎をして堅長ならしめ、女子これを食えば子をもうける」とある。成分には有機酸、糖類、ビタミンA様物質などが含まれる。
▼竜眼(りゅうがん)
竜眼は中国南部地方の原産で、台湾、沖縄、わが国の九州南部に生育している。
長楕円形の葉は裏が白く、芳香のある黄白色の花を開き、果実 は直径三センチの球形をして仮種皮のなかに一個の竜の眼のような黒い種子を含む。
果汁は甘く、中国人の中産階級以上の華商は、中年以降になると日常絶えず何かを口中にいれてモグモグと転がしている。
これは乾竜眼の外皮を剥いで一粒を口中に入れ、飴をしゃぶるように舌で転がしているのである。
竜眼は唾液で柔らかくなめらかになる。
午前に一個午後に一個用いる。三~四時間転がしていると種皮は自然に取れるのでそのまま食べて種はすてる。
これによって口内諸器官に適度な運動を与えると同時に歯も顎も丈夫になり口熱も消える。
何よりも効果のあるのはホルモンの泉ともいうべき唾液を飲み込むことで、これが回春と不老に役立つのだという。
成分としてはアデニン、コリンなどである。
▼山茱萸(さんしゅゆ)
庭の山茱萸の・・・と歌にまで謡われ広く知られたこの木は中国と朝鮮が原産地で、わが国にも観賞用として古くから栽培されている。
高さ三~四メートルに伸び、春に黄色い花をつける。
この果実の種子を抜き乾燥したものが生薬山茱萸である。
成分にはイリドイド配糖体のモロニサイド、スウロシド、ロガニン、ウルソール酸、タンニンなどが含まれている。
強精の効が強く、回春と強性に効果があり、陰萎の治療薬にもなる。又、利尿作用があり、寝汗を治し、強肝にもよい。
古典には「気を下し、陰を強くし精を益し、五臓を安んじ小便を利す、目を明らかにし力を強くする」とある。
山茱萸の強精作用は中国の歴代の皇帝にも高く評価されていて、多くの妻妾を御するのにこの生薬を利用していたといわれる。
▼菟糸子(としし)
原植物は、わが国及び中国、朝鮮など東南アジア全域に分布するヒルガオ科のつる性一年草でナナシカズラの種子を用いる。
ネナシカズラは寄生植物で他の植物にからみつき、吸盤で養分をすいながら成長する。
宿主植物が決まると根に続くところが枯れて根がなくなるためネナシカズラの名前がある。
成分としてはカロテン、タラキサンチン、ルテインが含まれている。
主な薬効としては身体を強壮にし、精力の源を培って強化し、性に活力を与える。
遺精、陰萎に効果がある。古典には「肌を養い陰を強くし、筋骨を堅くし、久しく服すれば目を明らかにし身を軽くして年をのべる」とある。
菟糸子の強精、回春、強壮効果は古くから知られている。
常用すれば仙人になることができるという。
▼青そう子(せいそうし)
熱帯の荒地に生息するヒユ科の一年草、ノゲイトウの種子を 青そう子(せいそうし)という。
果実は球形で黒褐色に光っており、とても小粒である。
ケイトウの種子も青そう子として市場にはでている。
「神農本草経」では青そう子を草決明ともいわれている。
セロシアオールを主成分とする脂肪油が含まれている。
降圧作用や瞳孔散大作用が知られている。漢方では体の不調を治し、精力の源を培い、性の力を倍加する、健脳と健眼にも効果がある。
古典には「五臓の邪気を治し、脳髄を益し肝をしずめ、耳目をあきらかにし、筋骨を堅くす」という温和な保健強精薬である。
▼羅摩子(らまし)
日本全土および朝鮮半島、中国、東南アジアに広く分布するガガイモ科のつる性の多年草、ガガイモの全草を用いる。
このガガイモの果実を羅摩子という。
茎を折ると乳白色の汁がでる。
秋に結実する果実は長さ十センチ以下の細長い袋状で、熟すると二つに裂けて中から多くの長い綿毛をつけた種子がでてくる。
葉や種子は乾燥してからすりつぶし粉末にして、滋養強壮、強精剤として使われている。
全草にはプレグナン誘導体が含まれている。
強精と催春の効果は極め付きといわれる。
古典には「家を去る千里羅摩とクコを食うなかれ、精気を補益し、陰道を強精にする」といわれている。一日量五グラムを煎薬又は浸薬として三回に分服する。
▼胡麻(ごま)
ゴマの原産地はエジプトまたはインドとされている。
中国より西方の国を胡といったので、胡麻と名づけられたらしい。
ゴマ科の一年草、ゴマの成熟種子である。
種子には脂肪と蛋白質が豊富で、含有率は四十から五十五パーセントもあり、炒って砕いたあとに蒸して圧搾すれば風味のよいゴマ油が得られる。
種子には脂肪酸としてオレイン酸やリノール酸、パルミチン酸が多く含まれるほか、セサミン、ササミノール、レシチン、コリンなどが含有される。
本邦では胡麻は食用とされているが、これは精力の要薬である。
回春と不老の効があるばかりでなく、体内の毒を消し、肌を美しくし、胃腸の働きも活発にする。古典には「五内(臓器)を補し、気力を益し、肌肉を長じ、髄脳をみたし、久しく服すれば身を軽くし老いず」とある。
炒ってから粉末にして食すると良い。
▼海松子(かいしょうし)
原植物はチョウセンマツ又はチョウセンゴヨウといい、原産地は朝鮮で、本邦では東北地方に少し産する五葉松の一種である。
葉が五葉で松かさは普通のまつより大きく、種子は卵形をして一センチから二センチ位の大粒のものもある。
油を多く含んでいて味はかすかに甘い。
気力を盛んにし、精力を強化し、白髪を黒くし、回春と不老の効あり。
古典には「久しく服すれば身を軽くし年を延べ老いず」とある。
本邦で市販されている「松の実」のほとんどはチョウセンゴヨウの種子、すなわち海松子である。松の実は古来仙人の霊薬といわれてきた。
この実には脂肪、蛋白質が豊富で脂肪はパルミチン、ミリスチン酸などの脂肪酸、蛋白質にはアルギニン、ヒスチジン、チロジングルタミン酸などのアミノ酸が含まれる。
▼胡ろ巴(ころは)
胡ろ巴(ころは)の原植物はやはりコロハといってギリシャから西アジアのかけて自生するマメ科の草で、全株に強い香気をもっている。
初夏に 白い花を開いて実を結び、種子は三~五ミリくらいである。
コロハは精力に使うほか、カレー粉やソースの原料として世界的に需要が多い。
身体の強壮と栄養に貢献するところ多く、精を強め性を盛んにする。
二次的効果として疲労を除いて心身をやわらげ、浄血と利尿の効もある。
古典には「腎虚、冷腹、張満、面色青黒を治し、膀胱を治すにはなはだ効あり」生薬コロハの成分はトリゴネリン、コリンの微量のアルカロイドを含有する。
しかし、中毒をおこす心配はなく精力増進や遺精冷えによる下腹部痛や下肢痛、月経痛に用いる。冷えは精力には良くない。
▼決明子(けつめいし)
普通は緩下薬なのだが、強壮の効果が強く視力も強化する。又、利尿の効果もあり、頭痛や頭重を除いて気持ちをさわやかにする。古典には「久しく服すれば精光を益し身を軽くする」とある。原植物は熱帯地方に分布するマメ科の低木性植物コエビスグサおよびエビスグサの種子である。エビスグサは外国の草という意味であり、決明とは「目を明らかにする」という意味である。決明子はわが国の民間ではハブ茶の原料として知られている。成分としてはアントラキノン誘導体のエモジンやアロエエモジン、クリソファノールなどが含まれる。精力増強にいいと古典の書物でも紹介されている。
▼酸棗仁(さんそうにん)
酸棗仁の原植物はサネブトナツメで南欧が原産地で本邦でもいくらか栽培されている。ナツメに似た植物で実もナツメに似て楕円形だが肉が薄くて種が大きい。棗よりも酸っぱいので酸棗の名がある。強精の要薬で、回春の効があり、神経を強壮にすることでも有名である。不眠症を治し健胃の効もある。古典には「五臓を安んじ身を軽くし年を延べる」とある。神経衰弱や房事過度によ不眠や過眠に愛用されている。この種子には成分としてベツリン、ベツリン酸、サポニンのジュジュボシドA、Bなどが知られている。
▼蘇鉄実(そてつじつ)
九州南部や沖縄、中国南部に分布するソテツ科の常緑低木、ソテツの種子を用いる。本邦の民間で蘇鉄実、蘇鉄子といっている。ソテツ(蘇鉄)という名は元気がなくなれば鉄釘を幹に打ち付けたり、鉄くずを養分として与えると蘇生することに由来する。発がん性物質を含有するので、余り食しないほうがいい。アデニン、ヒスチジン、ホルムアルデヒド、配糖体のサイカシンが含まれている。かっては強壮薬として、不老の効も認められ回春用に使われた。
▼肉豆く(にくずく)
原植物はニクズクという熱帯性常緑樹で高さ十~二十メートルに伸び、枝が盛んに出て円錐形の樹冠を作る。
果実は球形で熟すると二つにわれ紫赤色の長楕円形の種子を露出する。精気の興奮に役立ち、強壮薬となり、消化を促進し、香料にもなる。
ニクズクは欧州では古くから薬用、香料として使われてきた。
特にアラビア、ペルシャでは性的強壮剤として珍重された。主成分はミリスチン酸、パルミチン酸、オレイン酸のほか精油としてオイゲノール、リナロール、ゲラニオール、ボルネオール、サフロールなどが確認されている。
中世の欧州では媚薬としても利用された。古代から中世までは黄金と同価値に扱われていたほどだったが、現在は栽培が普及し安価に入手できるようになった。