【精力剤の成分 その7】
▼肥後芋茎(ひごずいき)
芋(さといも)の茎である。須伊木ともいい、煮食すると柔らかくて味は淡白、皮をはいで乾燥すれば白色で干瓢のようである。
これを水に晒してから使用する。
肥後のものがもっとも好まれるが普通の産地のものでも良い。
成分には粘液質のムチン、蓚酸カルシウム、ホモゲンチジンなどが含まれる。
これらの成分は敏感な体質の方はかぶれやすいので用心しなければならない。
不感症、冷感症の女性の陰部に塗布するとむず痒くなって性欲をもようすという。
▼何首烏(かしゅう)
中国原産であるが、江戸時代に八代将軍吉宗が中国から苗を取り寄せて全国に栽培させたと伝えられている。
地下の根茎は蛇のようになっている。
何首烏というこの人は生来生殖機能が小さく、五十八歳になるまで妻子がなかった。
山中で修道生活に入っていると、山酒に酔ったとき二株の藤が蔓と蔓を絡ませるのを見て、その根を粉にして服したところ、数ヶ月で強健になり、一年で生来の疾病が治り、白髪は黒くなり、容貌も若くなって数人の男子をもうけた。
その子延秀も百六十歳まで長寿を保ち、その子の首烏も百三十歳まで頭髪が黒かった。本邦ではツルドクダミとも呼ばれ、成分としてはアントラキノン類のクリソファノール、エモジン、レシチンなどが含まれ、強壮、強精剤として広く利用されている。
▼柏子仁(はくしにん)
虚弱な体には栄養剤となり、健康人には強精の効があり、浄血と鎮痙の効もある。
二次的効果として肌を美しくし、痛みを鎮め、利尿の効果もある。
古典にも「心気を養い、腎燥を潤し、魂を安んじハクを定め、智を益し神を安んず」とある。
柏子仁は中国古来の強精薬として高く評価され、神農本草経でも上薬として収載されている。
江戸時代には将軍家から庶民まで、強精剤として愛用されていた。
強精、強性のためには一日量八~十グラムを煎薬として一日三回に分服する。
柏子仁の原植物はコノテカシワというヒノキ科の常緑樹で、十メートル位に伸び、葉はヒノキに似ている。小さい白い花を開き、さやになった実に一個だけ種子がある。この種子の仁を柏子仁といって薬用にする。
▼胡桃仁(ことうじん)
生薬胡桃仁の原植物はテウチクルミ、オニクルミの実のなかにある種仁である。
全国各地に自生しているが、新潟、長野では栽培している。
クルミは千二百年前位に中国から渡来したもので西域の胡の国からもたらされたといわれる。強壮薬としても効果があり、強精の力も強く、滋養剤としても効果がある。
古典には「気を補い、血を養い、燥を潤す」とある。
成分としては脂肪油で四十~五十パーセント含み、リノール酸グリセリドのほか、ペントザン、ユグロン、ヒドロユグロンが含有される。
クルミ健康法として殻のついたクルミを二個を掌のなかで、ゆっくりと握って、弱くあるいは強く、たえず回転させながらころがす。
これによって掌と指に力が加わり頭にのぼりがちな血液を還流させ、血圧を下げ、健康に良い効果がある。
▼ヨクイニン
東南アジア原産のイネ科の一年草、ハトムギの種子を用いる。
薬材にはこの種子から皮を除いた白い種仁をヨクイニンといっている。
七~八世紀にわが国には中国から渡来した。
江戸時代(享保年間)から栽培されるようになり、わが国ではジュズダマを川穀といい、ヨクイニンの代用としては用いない。
ハトムギはジュズダマとよく似ているが、ジュズダマの表面は硬いホウロウ質で、指で押しても砕けない。
東南アジアや中国ではハトムギでおかゆを作ったり、米と一緒に炊いて食用にしている地域もある。
その成分のなかに微量のアルカロイドが含まれており、その毒性はかえって薬成分となり、疾病に効果をあげるとともに、強壮薬としての役も果たしている。
古典には「久しく服すれば身を軽くし、気を益す」とある。
▼キナ皮
強壮の要薬として強精剤としても解熱と鎮痛にも優れた効きめがある。
マラリヤの特効薬として知られる。南米のアンデス山中にあるアカネ科の常緑高木、アカキナノキなどの枝や幹、根などの樹皮を用いる。
ペルーの住民は古くからキナノキの樹皮をマラリヤなどの熱病に用いていた。
現在はアカキナノキを台木とし、キニーネ含量の多いボリビアキナノキを接木して栽培される。キナ皮にはキニーネ、シンコニン、キニジンなどのアルカロイドなどが含まれ、キニーネには抗マラリア、陣痛促進作用、解熱作用、、キニジンには抗不整脈作用がある。
キナ皮の三十種に近いアルカロイドの中で、マラリヤの効果のあるのは二、三種で残りの二十数種のアルカロイドを含むキナ皮には強壮、強精、鎮痛、解熱、造血の聖薬として煎薬や粉末として利用される。
▼杜仲皮(とちゅうひ)
強壮と強精の要薬で、回春の効著しく、痛みを鎮め、神経衰弱にも効果がある。
古典には「中を補し、精気を益し、筋骨を堅くし志を強くする。
久しく服すれば身を軽くし老に耐える」とある。杜仲は中国原産の落葉樹で、かっては自生だったが近年は栽培されている。薬用にするのはこの樹皮で、外の荒皮を剥いで除き乾燥したものが生薬杜仲である。
杜仲は切ったり、折ったりするとハスの茎のように白い糸を引く。
これはグタペルチアというゴム質のせいである。もっとも古い中国の強精薬で、王侯貴族は多くの妻妾を抱えた ので精力の消耗が激しく、強腎食を多食するかたわら、こうした精力剤を用いたと伝えられる。
中国産の唐杜仲も日本産の和杜仲(マサキ)も同じ目的で使用される。
▼合歓皮(ごうかんひ)
健康を整え、精力をつけ、心気を興振して回春の効をあげる。
古典には「五臓を安んじ心志を和す、人をして歓楽して憂いなからしむ。
久しく服すれば身を軽くし、目を明らかにし、欲するところを得る」とある。
中国では古くから愛用されている精力剤である。
合歓の原植物はネムの木という落葉樹で、東アジア全域に自生する。
葉は夜になると両方から閉じるので眠りの木の名がある。
中国の書に、人の怒りを静めんとせば、贈るに青裳(ネムノキ)をもってせよ。という諺がある。
強精と強壮には樹皮を刻んで一日十グラムを煎薬、又は浸薬として三回に分服する。 合歓酒は強精酒としても有名である。
▼桂枝(けいし)
主な薬効は健康を増進し、心神を爽快にし、精力をつけ、健胃と老化防止の効もある。
その他、腸を整え、熱を解き、痛みを鎮める。
古典には「一切の風気を治し、五労七傷を補し、精を益し目 を明らかにし、肌肉を生じおけつ(血の循環の悪い病)を消す。
桂皮、桂心、桂葉などがある。桂枝は中国南部やインドシナ半島に自生し、栽培されているクスノキ科の常緑高木、ケイの若枝を桂枝という。
特有の芳香があり、わずかに甘味がある。一般にはシナモンで総称している。
成分としてはケイアルデヒドが含まれている。
漢方では葛根湯、桂枝湯、苓桂朮甘湯その他多くの方剤に配合されていて、強壮と興奮の発揚剤としても用いられている。