【精力剤の成分 その8】
▼茯苓(ぶくりょう)
日本、中国、北米に分布し、アカマツやクロマツなの根に寄生するサルノコシカケ科のマツホドの菌核を用いる。
菌核とは菌糸の塊で、不規則な塊状をなし、大小もさまざまである。
なかには重さ一キロ以上で人の頭くらいのものもある。表面は灰褐色であるが、中は白い。伐採後四~五年の松の切り株に発生する。
強精の秘薬として、百薬に調合する。回春の効も高く、強心剤 として用いられ、利尿と鎮静の効もある。
古典には「久しく服すれば魂を安んじ、神を養い年を延ばす」とある。
成分としてはトリテルペノイドのエブリコ酸、パキマ酸、 ツムロース酸、多糖体のパキマ酸、ステロールのエルゴステロールなどが含まれる。薬酒にも料理にも利用できる。
▼伊保多(イボタ)
強壮と強精の秘薬としてわが国で古くから愛用されている。
一般には尿の出を良くし、止血の効もあり、イボ取りにも役立つ。
原植物はイボタの木というモクセイ科の落葉樹である。
この木にイボタカイガラ虫が寄生し、七月頃に雄虫が体の表面に蝋を分泌して九月中旬に蝋の巣のなかで羽化して成虫になる。
交尾後に雄虫は死ぬが、この雄虫が飛び去った後の、蝋の巣を採取したのが伊保多で、また伊保多の花ともいわれる。
富山県や福島県で産する。
常用しても安全な精力剤で成分としては脂肪酸のセロチン酸、イボタセロチン酸、セリルアルコールが含まれる。
内服する場合はそのままで、一日量六グラムを三回に分けて用いる、煎薬とはしない。イボタの木から採取した灰白色の粉粒形のものを用いる。
▼淫羊かく(いんようかく)
原植物はイカリソウである。
山野に自生する多年草で、茎の高さ30~40cmになり、長卵形の薄い葉を茎から三枚づつだし、枝も三本づつでるので、三枝九葉草の名がある。
中国ではこの草を食べた老人が青年のようになり杖もいらなくなったというので放杖草ともいい、効果がいいので千両金とも言っている。
我が国では初夏につけるその花が碇の形ににているのでイカリソウの名でよばれている。
我が国ではホザキノイカリソウ、シロバナイカリソウ、バイカイカリソウ、キバナイカリソウなど。
中国ではホザキイカリソウ、チョウセンイカリソウその他多数あるがいずれも薬用にしている。
この生薬の性的強精の効は古くから有名で、我が国にも漢方医学の伝来と同時に賞用されている。
伝説によると中国四川の比部という山村で、ヒツジ群のなかの一頭が特に性的に強く、一日百頭の雌羊を犯して衰えづ、その原因を調べたところ、この草を毎日好んで食していたので、淫羊かくと名づけたという。
中国では豆の葉をかくといい、この草の葉が豆の葉に似ているところから名ずけらた。成分としてはイカリイン、フラボノール配糖体、マグノフロリンなどである。
煎薬としては一日量八~十グラムを煎じて一日量とする。
▼海狗腎(かいくじん)
オットセイのペニスを乾燥したものである。
オットセイはアシカ科の海獣である。強い雄は三十頭の雌を従える。
雄は体長二メートル体重二百キロ雌は体長一メートル体重四十五キロほどである。
海狗腎といわれ、男性ホルモンのアンドロステロンやアミノ酸、脂肪などを含有し、インポテンツに効くということで大々的に売り出されていた。
回春を求めて人々は薄暗くなってから、人目を気にしながら、薬屋ののれんをくぐったようである。
▼別甲(べっこう)
スッポンの背および腹の甲羅を用いる。
一般には背の甲羅が使用される。背甲を煎じ煮詰めたニカワを別甲膠という。
スッポンは淡水に生息し、背甲は淡い灰緑色の楕円形で亀甲がなくて中央が突起し、口は長く突き出ている。
クコシ、オウギ、トウキ、サンヤクなどとスープにしたものは薬膳として知られている。
スッポン料理は強精食として有名であり、滋養、強壮や発熱マラリアなどによる肝脾腫、腹部腫瘤、小児のひきつけなどにも用いる。
腫瘤や肝脾の腫大にはゴシュユ、ハンゲなどと用いる。サイコ、ダイオウと配合した処方もあり、抗腫瘍作用について研究が進められている。
▼朝鮮人参(ちょうせんにんじん)
江戸時代には高貴薬として病身の親に人参を飲ませるため苦界に身を沈める娘が多くいたことはよく知られている。
野菜の人参はセリ科だが、高麗人参はウコギ科の多年草である。日本に渡来したのは享保の初期で、幕府が種子を与えて栽培を奨励したことから御種人参ともいわれる。
当時、労咳と呼ばれた肺病は薬がなく人参に頼るしか術はなかった。
当時は労咳は今のガンのようなもので、不治の病であつた。
高麗人参は弱った体力を補い、新陳代謝機能を回復させる作用があり、食欲不振、体力増強にも効果が確認されている。
特に白参の根を湯通しして蒸気で蒸したあと乾燥させたものが紅参である。生の根を一日天日で乾燥した後、硫黄でいぶして再び天日干しするという方法もある。紅参は免疫力を高める作用があるというので、注目されている。
▼黄精(おうせい)
黄精とはナルコユリの根茎である。
各地の山林や草原に自生するユリ科の多年草である。地下茎が横に延びて、その先端から一年ごとに一本の茎を出す。
年節がはっきり残っている。
薬にするのは根茎部、花の時期か茎葉が枯れる秋に根茎を堀りとり、ひげ根を取り除き、水洗いして天日で乾す。
これが生薬・黄精である。多数の結節がある円柱形で長さは四~六センチで、淡黄色か褐色をしており、甘い匂いがする。
澱粉のほかアルカロイドが含まれる。
江戸時代には黄精の砂糖漬を売り歩く声を聞かない日はなかったそうである。
黄精売りは湯女屋から声のかからぬ日はなかった。
俳人の小林一茶は精力絶倫だったそうだが、この黄精の大の愛用者でもあった。
黄精酒は強精にお奨めの一品である。
▼冬虫夏草(とうちゅうかそう)
中国の四川、貴州、チベットなどに産するガの幼虫に生えたキノコの一種を用いる。このキノコはバッカクキン科のフユムシナツクサタケと呼ばれる菌類で、とくにコウモリガ科の昆虫の幼虫に寄生する。
幼虫の体に入った菌は菌糸を伸ばして成長し、やがて体内を完全に占領し、さらに長い柄を出してキノコが発生する。
幼虫の長さは三~八センチ、柄の部分は四~十センチある。頭部がやや膨らんでいる。市販されている生薬は全長が10センチ前後、黄褐色である。
冬には虫の姿をし、夏に変じて草になると信じられていたため冬虫夏草の名があり、古来ウドンゲとともに吉祥のしるしとして知られていた。現在昆虫寄生菌を総称して冬虫夏草といっている。蝉の幼虫に寄生したものを特に金蝉花といっている。
成分としてはコルジセピン、コルジセプス酸、ビタミンB12などが含まれ漢方では肺結核の咳、喀血、自汗、寝汗、インポテンツなどに使用される。
▼紫河車(しかしゃ)
人の胎盤を乾燥したものを用いる。
紫河車は健康な産婦の分娩時に排出された胎盤の血管を切り、何度も水で洗い煮たり、蒸したりした後に乾燥したものである。薬材は直径十~十五センチの皿状で、一面は全体に凹凸があり、もう一面は羊膜に覆われて平滑で、中央に臍帯の残りがある。
胎盤にはさまざまな成分が含まれており、性ホルモン、γーグロブリン、ウロキナーゼなどがある。
胎盤埋没療法が研究され、リュウマチやアレルギー疾患に効果があるといわれたこともある。
胎盤製剤は更年期障害や乳汁分泌不足の治療に用いられている。またウシ胎盤エキスは抗潰瘍剤として用いられている。
漢方では補気、補血、補陽の効能があり、不妊症、習慣性流産、インポテンツ、虚弱体質、結核、喘息、神経衰弱などに用いられる。
▼桑ひょう蛸(そうひょうしょう)
カマキリ科のオオカマキリ、コカマキリなどの卵鞘を用います。
カマキリの成虫は蟷螂(とうろう)と呼ばれていますが、余り用いない。桑の枝に付いているものが珍重され、桑ひょう蛸と呼ばれたいる。カマキリの巣を晩秋から春に採取し、せいろで三十~四十分蒸して卵を殺した後乾燥する。
日干し乾燥したものは硬く、火であぶったものは柔らかい、一般には幼虫の出たものは用いない。成分不詳。卵鞘に付着している蛋白質膜にはクエン酸カルシウムの結晶が含まれている。
漢方ではインポテンツ、遺精、夢精などに用いる。
腎虚には頻尿、遺尿、遺精、健忘症、不眠などに遠志、人参などと配合する。至宝三鞭丸にも配合されている。
▼孫太郎虫
山椒魚、鰻が小児五疳の妙薬といわれた。
特に有名なのは「孫太郎虫」である。
これは戦前まで売られていたようで、いくつかを串刺しにして売る歩いていたという。
孫太郎虫売りである。
孫太郎虫とはヘビトンボの幼虫で、東北の農民の飢餓生活が生み出した、蛋白食である。体長3~5cmの、ムカデのような灰黒色の虫である。
これを焼いて砂糖醤油をつけて食べるとイナゴのような味がするという。実際には焼いてふりかけにして食べさせたようである。山椒魚も蛋白源としても利用されていたが、どちらかというと精力剤としての需要のほうが多いようである。
鰻も又、高たんぱくであるからやはり栄養不良の虚弱体質の子供に疳性の子供が多いのではないだろうか。
▼いもりの黒焼き
黒焼は炭化する前の状態で止めて作り上げるのである。
有名なものにはイモリの黒焼がある。正徳三年(1713年)刊の和漢三才図会には「イモリの交合せるものを山を隔ててこれを焼き、もって媚薬となす。
壮夫争いてこれを求む」とある。雌雄のイモリを捕らえて竹筒の節をへだてておくと、三夜のうちに節を食い破り、交接した形になっているという。
これを別々に素焼きの土器にいれ黒焼にする。できあがったところで薬研ですり粉末にする。これを意中の人にふりかけるのではなく、一服飲ませるのである。
なびくのは間違いないという。恋い患いの特効薬である。